細胞性粘菌とは

細胞性粘菌Dictyostelium discoideum(和名キイロタマホコリカビ)の無性生活環と特徴

細胞性粘菌は土壌表層に広く分布しており、非常にしたたかな生活様式をもつユニークな生き物です。最終的な分化形態としては子実体と呼ばれる植物のような構造を形成します。子実体は胞子群とそれを支える細胞性の柄(死細胞)からなります。

胞子は適当な条件下で発芽してアメーバ状の細胞となり、周囲の餌(バクテリアなど)あるいは栄養豊富な培養液を取り込みながら動物細胞のように分裂・増殖します。周囲の栄養源が枯渇して飢餓状態になると、細胞はやがて走化性に基づくアメーバ運動により集合して多細胞体制を構築し、分化・パターン形成の方向に移行します。

細胞性粘菌の一種である Dictyostelium discoideum では、約10万個の細胞からなる半球状の集合塊(マウンド)の先頭部に乳頭突起(tip)が形成され、やがてナメクジ状の移動体となります。移動体には、運動方向に関して厳密な前後軸極性が存在するとともに、明瞭な分化パターンが認められます。移動体の前部約1/4を占める細胞(予定柄細胞)は、子実体形成の際には柄細胞に分化して死に、一方、後部約3/4の細胞(予定胞子細胞)は物理・化学的ストレスに対して抵抗性をもつ胞子に分化して生き延びます。
細胞性粘菌とは

 

このように単純ではあるが、発生過程における様々な素過程を包括しており、また遺伝子組換えや培養・観察などの取り扱いが簡便である事から、発生研究の重要なモデル生物として古くから研究が進められてきました。細胞性粘菌の走化性運動はその分子機構が白血球の走化性と共通しており、走化性やアメーバ運動、細胞分裂のモデルとしても広く用いられ、分子メカニズムについての理解が進んでいます。

 

細胞性粘菌はカビに良く似た子実体を形成しますが、粘菌類と真菌類は分類学的に異なる「界」に属する生物群です。ペニシリンの発見以来、真菌類は創薬資源として人類に貢献してきましたが、近年、細胞性粘菌から多くの生物活性物質が単離・同定されており、細胞性粘菌は「未開拓(未利用)創薬資源」としても注目されつつあります。

細胞性粘菌の動画

胞子からのアメーバの発芽

D.discoideumではなくD.microsporumの細胞。

撮影:京都大学 井上 敬

バクテリアの捕食と分裂

黒の粒状の物体が餌となるバクテリア。

撮影:京都大学 井上 敬

集合期に見られるcAMP信号

集合中心からcAMPの波が伝搬している。

撮影:京都大学 井上 敬

抽出した螺旋波

各コマ1分前の像との差分を取って波を抽出。

撮影:京都大学 井上 敬

ストリームから移動体形成

ストリームの一部が途切れ多数の移動体が生じる。

撮影:京都大学 井上 敬

移動体の運動

粘液質の膜を後に残しながらナメクジのように移動。

撮影:京都大学 井上 敬

子実体形成

アメーバ状の細胞は柄細胞と胞子に分化する。

撮影:京都大学 井上 敬

液胞と細胞壁形成

上は位相差像、下は細胞壁を蛍光標識したもの。

撮影:大阪大学 内川 徹

液胞の融合

AmtA-GFP株で液胞膜を可視化している。

撮影:大阪大学 内川 徹

マクロシスト形成

円で示した場所に接合子が存在。

撮影:京都大学 井上 敬

ソリトン波

走化性不能株に見られるソリトン様細胞集団運動。

撮影:筑波大学 桑山 秀一

ソリトン波の交差

この波は衝突してもお互いを通り抜ける事が出来る。

撮影:筑波大学 桑山 秀一

集合期のストリーム

集合期の細胞が形成する樹状パターン。

撮影:大阪大学 山崎 真一

集合期に見られるcAMP信号

右側はフレーム間の差分画像に色を付けて表示。らせん状にシグナルが伝播する様子が見れる。

撮影:大阪大学 橋村 秀典

単細胞期の自発運動におけるシグナル分子PIP3の局在

 

撮影:大阪大学 橋村 秀典

飢餓状態の細胞性粘菌の3次元アメーバ運動

 

撮影:大阪大学 橋村 秀典

細胞性粘菌の集合時の流れの中の細胞間シグナル伝達の蛍光イメージング

 

撮影:大阪大学 橋村 秀典

細胞性粘菌の集合時の細胞間シグナル伝達の蛍光イメージング

 

撮影:大阪大学 橋村 秀典

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